父として

愛娘(まなむすめ)が何か思い悩んでいるようだ。

問題を解きながら。
ぉ父さん。ダメ、あたしココロが病んでる」
「ココロが病んでるぅ? はっはっはっ(高笑い)
「ちょっとぉ、なんで笑うのぉ。笑い事じゃないんだからぁ」
「そら笑うがな。酒の味も知らんで『ココロが病んでる』なんて。ええか、比古のアニキが言うようにウマイはずの酒がマズイと感じる、そーいうんが『ココロが病む』っちゅーもんや」
「ヤケ酒は?」
「同じや。ヤケ酒っちゅーのは、ちっとも酔わんし、全然美味くないんや」
「そうなんだー」
「そうや、そういうもんや」

それから数十分後。
「やっぱり病んでるんだよぉ」
「あんなぁ、ちぃ、心が病むってのと、気が病むってのはちゃうで」
「どう違うの? 気が病むって、例えば?」
「あいつどうしてっかなー、大丈夫かなーとか。気に掛けるっつーか、心配するとか、そんな感じ」
「そうじゃないんだよねぇ、胸が苦しいっていうか」
「ああ、メシも喉を通らないとか」
「そう! ご飯食べらんなくて、かなり痩せたの」
「はっはっは」
「もー、笑い事じゃないんだってばさぁ」
「っは。…そー言われれば、確かに。お前痩せたな(少し重大さを認識)
「そー、聞いて。友達にもね、“ちぃ、ちょっと痩せた? 足細くなったよね”って言われて。確かに、その前の日とか、ペットボトルの500あんじゃん、アレの肩ぐらいまでしか水分撮ってなくて、で、朝ご飯は食べる気しなくて、昼はどうにかサンドイッチを一個食べてぇ、夜はやっぱり食べる気しなくて…。そんで体重測ってみたらね、3kg痩せてたの」
「それは…ちょぉ、何があったねん」
「いやぁ、ダメ、それは言えないよ~」

授業終了後だったと思われる。
「あ~、心が病んでるよ~」
「お前、ホントは言いたいんとちゃうか? ホンマは聞いて欲しいんやないか?」
「だからぁ、そんな簡単に言えないんだってば」
「まぁそうなんだろうけどさぁ、何も知らん俺は結局お前に何も言ってやれへんで。なぁ、誰かに話すだけでラクになることもあるぜ」

授業終了後はあまりに色々な所に話が飛んでいき、記憶が定かでは無いので割愛するが。俺が授業スペースから離れ、ウーロン茶を飲み、再び戻ると帰りかけたちぃがまた席に着いて。なんや?と言う俺に、いや、だからねーとまた他愛も無い話―もう卒業なんだよねとか、あの番組のこの言葉が響いただの―をし始めて。

「お前、もう迎え来てるんやないか?」
「まだメール来てないけど、居るのかなぁ?」
「いや、もうこの時間やから、きっと待ってるで」

そんな風に、ムリヤリ打ち切った。案の定、迎えは既に来ていた。

きっと、ちぃは話そうとしたんだ。いつもみたいに『例えばさぁ、~~だったとすんじゃん』っていう、すごく分かり易い具体的な例えで。だけど、周りが気になった。話すタイミング、他の誰もが居なくなる瞬間を窺っていたんだ。でも、それは訪れなかった。

何分も前に、マナーモードにしてる携帯のLEDは点滅していたのに、それを黙殺してることに気付いてたから。だから、俺がタイムアウトを宣告したわけで。

長い付き合いだ。わかるんだよ、そのぐらいのことは。来週の火曜か、土曜か。うまく時間と場所を作って、話を聞いてやろう。

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