なんかヤバイかも

とにかく食欲がない。朝飯が食えないのはいつも通りにしても、今日は夕飯すら半分も食えなかった。

あいのうたを観ながらだったのが失敗なのか。いやー、今日のは泣けた。菅野美穂と同時に泣いた。

…軽く吐きそう。一服するのがためらわれる。

ゆっこ来た。問題の小論文を見せてもらった。…う~ん、これはヒドイな。

「あんなぁ、ゆっこ。まず…」と色々指摘しようとしたら、すかさずちぃが「ぉ父さん、なるべくソフトにね」と注文を付けてきた。「却下。あとで元気づけてやっから、まずはきちんとマズイところを受け止めろ」

ズバズバ言ってやりました。
「お前、小論のテキストって何かあるか?」
「テキストって? 自分で持ってるヤツってこと?」
「そう」
「無い」
「っかー、この馬鹿たれ! そんなんで書けるわけないやんか。何も知らんと書けるもんとちゃうで。ちぃ、ちょっとお前のテキスト貸しぃ」

コピった。
「ウチに帰ってからでええから、まずそれを読め。で、その手順に従って、構想を練るようにしろ。あんまり時間は無いけど、きちんと手順に従った練習をしぃ」
「読んでから練習ね。わかった」
「さて、じゃあちと一服しに行くか。付いてきぃ」

「あ~、あたしも行く」とちぃ。む…できればゆっこのみが良いんだが…とは言えず、仕方なく二人とも引き連れて外へ。二人にジュースを奢り、俺は一服。二人して「寒いね」と言いながら、手の中で缶を転がしていた。

ぉ父さんタバコ吸いたくて仕方なかったんでしょ。90分しか持たないモンね」とちぃ。なんとなくだけど、この時点でコイツは気付いていたのかも。“一服に誘うってことは何かするんだろうな”って。

タバコを消して。
「さて、じゃゆっこ、ちょいとその缶貸して」
「…?」
(缶を奪い取り)ほしたら両手をこうして、そう、で、目ぇつぶってみ」
「え~、なに~?」

ゆっこを元気づけるには、これが一番だと思った。絶対合格るよ、とは言えない代わりに、俺は応援してるよ、ってことを伝えたかった。でも、きっとちぃは少なからずガッカリするんだろうな。「あたしだけのもの」じゃなくなっちゃうから。だからゆっこだけを連れ出したかったんだけど。

ゆっこが目をつぶったのを確認して、コートの内ポケットに手を入れた。俺がこれから何をするかが分かったんだろう。ちぃの表情が変わった。驚いて、一瞬だけムッとして、寂しそうに納得して、目をそらした。それからゆっこの方を見て、笑みを浮かべた。

そうだよ。これはちょっとしたドッキリなんだ。お前も、ゆっこが驚く様を見たいだろ? 頑張ろうって気になって欲しいだろ?

ポケットから取り出したところでゆっこが目を開けてしまったので、慌てて後ろに隠した。
「だー、目ぇつぶってろや」
「だってぇ、え、なに~?」
「いいからいいから。ゆっこは目をつぶるのー(笑)」
言いながらちぃは後ろから目隠し。

掌に載せた。でも俺の手はどけない。ちぃの目隠しが解かれた。
「はい。何が載ってるでしょうか」
「え~、なに~? 全然わかんない、何?」
「ほい」
手をどかした。
「…うそ~! えっ、ウソ。これって、あれ…」
ちぃとおそろな」
「だよね、ちぃの鞄に付いてるヤツ。あのすっごい自慢してたヤツ」
「え~、あたしそんなに言ってないよ~」
「言ってたじゃん、駅でさ~」
「そうだっけ~? あ~、でも結構色んな人に言ったカモ…」

ゆっこの合格お守り第一号だね」
「ホントだよ~。うわ~。ちょっとちぃ、あたしどーしよ~」
しゃがみ込むゆっこ。その隣にちぃもしゃがんで。
「頑張るしかないね」って。自分にも言い聞かせるように。

ちぃが諭すように言う。
「きっとね、ぉ父さんはね、一服したかったんじゃないんだよ。これをゆっこにあげるために、わざわざ一服しよ、って理由を付けたんだよ。よかったね、ゆっこ

ご名答。

立ち上がって、今度は俺に言う。
「それにしても、ぉ父さんって案外ロマンチストだよねぇ」
「俺が? そうか?」
「そうだよ~。今の渡し方とか~」
「そりゃーお前、渡すからには驚いてもらわな、渡す方としては面白くないやんか」

教室に戻って、コートを脱いで、再びヤツらの自習スペースに戻る。
俺「さてゆっこ。次は面接や」
ち「あれ、ぉ父さん普通になってる」
俺「普通? ああ、こんな暖房の効いてる部屋でコート着てたら暑いやろ」
ゆ「え、でも、さっき(一服する前)まで着てたじゃん」
俺「そりゃー、あっだよ。ポケットが必要だったからさ。スーツの内ポケットにゃコレ(タバコとライター)が入ってるし」
ち&ゆ「…?」
俺「…もーお前に渡したから、着てる必要も無くなったの」
ゆ「あっ、なるほど~」
ち「へ~。すげ~、ぉ父さん最初から考えてたんだ~」

俺「まぁそれはいいから。面接や。あ~、お前の面接もなんだかんだでやれてないんだよな。どーすっかな…」
ち「あたしはいいよ。今日は普通に自習してる」
俺「そっか、悪いな」
ち「うん。あたしは試験まだ先だし。今日はゆっこぉ父さん貸してあげる」
ゆ「だって。貸してくれるって」
俺「勝手に貸し借りすな(笑)。はい、じゃまず志望動機から…」

「ん~。お前なぁ、よく聞かれる項目については最低限何を言うか考えとかんとアカンで」
「あ~、やばいよ~。ちゃんと考えとこ」

「お前、金曜ってこれるか?」
「金曜? どうだろ」
「来るんなら、小論の模範解答…模範になるかはわからんけど、俺だったらこう書く、みたいなのを用意しといてやる。で、お前が書いてきたものはその場で添削してやるけど。どーする?」
「あ、じゃあ来る、行く」

もう二日しかない。だけど、まだ二日はあるんだ。

小論の模範解答作ったよ…六時過ぎたよ。orz

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