わかるよ

約束通り、二時過ぎに教室入り。

授業が始まるまで、小論の添削をしたり、面接の練習をしたり。ボイレコ(正確にはデジカメ)で声を録って聞かせてやった。さすがに自分の声を聞くのは恥ずかしいらしい。でも、それによって言いだしと結びがおかしかったりするのを確認できたりと、多少の役には立った。

ある中3の男子生徒。

変わってきたのがよくわかる。こと数学に関しては、意識のベクトル、その方向と強さがずば抜けている。今解説されていることを理解して、身につけようとする意識。俺が解けると言うからには、必ず解けるはずだという意識。そして実際に解けたことにより得られる自信。

わかる。わかるよ。お前は変わった。分からないんじゃない、分かろうとしなかったんだ。見つからないんじゃない、見つける前に諦めてたんだ。

偏差値60まで持っていったる。

ある高3の女子生徒。つーかちぃ(笑)。

「今日、数学」
「そやな。いつも通りや」
「面接の練習にしない?」
「しない。するんなら授業終わってから」

授業中「どや、調子は?」と声をかける。顔を上げてこちらを向く。その表情を見て「何番がわからんの?」と尋ねる。

「何で詰まってるってわかるの?」
「顔見りゃわかる」
「ウソだぁ~」
「ホンマやて。口を閉じてコッチ見るときは困ってるときやもん」
「そーぉ? え、口開いてるときは?」
「順調に行ってるとき。つーか、順調なときは『んとね~』って、ドコまで進んでるか自己申告するし」
「え~~。そーかなぁ…あ~、でもそうかも。ちょっとぉ、なんか恥ずかしいよぉ~」

そう言って口元を手で覆った。

でもな、『目は口ほどにものを言う』ってあるやろ。まさにその通りで、実は『目』を見てしまえばわかるんよ。お前は気付いて無いだろうけど。

ぉ父さんのストレス発散法は?」
「飲む。そして歌う」
「(笑)」
「まぁ、発散するほどのストレスは溜まらんし、溜めんようにしてる」
「そうなの? そんなのできるの?」
「うん。ストレスってのは負荷やんか。できもせんのに頑張ったり、どーにもならんことに責任感じたりすっから溜まるんや。俺はある種あきらめっつーかさ、自分なんぞたかが知れてるって思ってる部分があるから」
「…(よく分かんないぞ、って顔)
「例えば、何かやろうとして上手くいかないとか、失敗したことに対して周りから色々言われたりとかすっと、ストレスを感じるわけやろ」
「うん」
「俺はちゃうねん。無理なモンは無理やし、そんな何でも完璧にできるわけやない。上手くいかんことはあるし、失敗することもある。それで当たり前やし、過ぎてしまったことはやり直せないし。だったら、次は頑張ろうとか、同じ失敗だけはしないようにしようとか、そう思うしかないやん。もちろん、後悔は抱えてるし、不安だってあるけど、それはストレスとは別なんや」
「へ~、なんかスゴイなぁ…」

「あたしの発散法はね、笑うこと。友達とね、馬鹿話して笑うの。でも面接で馬鹿話って言っちゃダメだよね」
「良くは無いな」
「う~ん、どう言ったら良いのかな」
「馬鹿話って、どんなん」
「え~、何だろ。ホント、何でもない下らない話ばっかし」
「ほしたら、『他愛もない話』でいいやろ」
「お~、そっか」
「『友達と他愛のない話で盛り上がって、たくさん笑うことです。そのときだけはキツイことやツライことから離れることができます。そうして楽しい気持ちになると、また頑張ろうという気になれます』こんなカンジかな」
「あ~、なるほど。ってか、ぉ父さんいっつも突然スラスラ言うから、全然メモるヒマないよ。なんだっけ…もっかい言って」
「だ~め。借りモンの言葉はバレるよ。文章として書き留めるにしても、お前が考えて浮かんできた言葉じゃないとダメだよ」

こんな無給の出張大サービスも、月曜で最後だ。“けっこー頑張ったつもりだけど、でも受かんないよね~”と思ってる娘が、せめて頑張った分だけは本番で発揮できるように。

最後の最後に、とっておきをくれてやろうと思う。

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