先週の土曜日

(mixiに移転する前のような長文です)

先週の土曜日は、地元のM高校の文化祭一般公開日でした。
そこには、俺にとって最後の教え子とも言うべき生徒がいます。

行ってきました。

「お前、地元に帰ってきたんなら…」って御意見はごもっとも。
いや、寄ろうかどうか迷ったんだけどね。
でも…なんか…まぁ、迷った挙げ句に行かなかったよ。
気になるようなら今度飲んだときに話すわ。

っていうか。
その文化祭すら、行こうかどうか迷ってて。
告知のメールも来たけど、返信してなくて。
当日、朝の八時半に目が覚めて考えました。

行くべき理由。
行かなくてもよい理由。
行ってはいけない理由。

総当たりでハカリに掛けたら、行くべき理由が勝ってしまいました。

だって、去年の文化祭に行ったとき、約束したんですもの。
「来年も、また来るよ」
「まじで? 約束だよ?」
「ああ。俺はウソは付くけど約束は守る」
「ウソ付くのもダメだよ~」

もひとつ。
現役で塾講師をしていた頃、卒業していく生徒たちに
「進学して落ち着いたら遊びに来い。茶ぐらいは出してやる」
と言ってて。
実際本当に遊びに来てくれたときには、すごい嬉しくて。

あの頃はずっと「来てもらう」立場だったわけで。
『俺がそこに居る』のが分かったから、来てくれた子もいるわけで。
そーいうことを、来てもらうことの嬉しさ、喜びを知ってるからこそ。
最後ぐらいは、恩返しとは違うかも知れないけれど、「行ってあげる」立場にならなきゃな、とか思って。

電車に乗って2時間ちょっと、駅から歩いて20分ちょっと。

目的地に着いて、人でごった返す校舎内に立ち入って「お~、この人混みで『リアル・ウォーリーを探せ』はつらいな~」と思ったら早々に見つけてしまいました。

「いよぅ」
きょとーん
「お疲れ。売り子やってんの?」
「えーっ!?えー?あー!」
「元気そうやね。いや~近いと思ったけど、実際駅から歩くと結構遠いね(笑)」
二の腕掴まれて
「ちょっと~。こんな余計なサプライズいらないから~」
「いや、別にサプライズじゃないし」
「だってメール返ってこないんだもん。来るなら来るって言ってよ!」
「あ、まぁ、確実に行けるとも行けないともわかんなかったし。あと返信めんどくさかったし」
「なにそれ~。ひどい~」

「先生、カレー食べる? ウチらのクラス、カレーやってんだ」
「んじゃ、せっかくだから昼飯がてら頂こうかな」

『○○ちゃん、カップル席空いてるよ?(笑)』
「だって? 先生?」
「バカ言え。ってか、あそこはさらし者席やろ」

カレーを食いながら、近況とか、進路とか話したり聞いたり。

「でも、ほんと、先生が来てくれるとは思わなかったな~」
「去年、昇降口で約束したやんか。また来年、て」
「そうだけど~。でも、メールしたのに返事ないんだもん」
「…約束は、守る」

「俺以外、誰か来てないの?」
「来てないんだよ~ いちおー、教室には『やりまーす』って感じで宣伝しに行ったんだけど、もう知ってる先生も○○先生ぐらいしかいなくて…しかも行くのは無理っぽいみたいに言われたし」
「そかー」
「中学の頃は、××先生とか、みんなして運動会の応援に来てくれたのになー」
「そーだね。行ってたね」
「なーんか、さみしいなぁ…」

「そんなもんやって」
「そうかな~」
「ま、結局ある期間、先生と生徒として関わっただけだし」
「まじで?」
「ウソに決まってるやん」
「ちょっと~」
「ま、他の先生はどー考えてるか知らんけどね」
「え~」
「でも俺は、今はもう先生じゃないけれど、かつての教え子たちの前では、ずっと先生じゃなきゃいけないと思ってる。それこそ死ぬまで」
「死ぬまでとかやめてよ~。ってか、タバコ止めた?」
「全然」
「も~」

「つーか、先生!」
「ん?」
「約束はもう1個あるんだよ? 覚えてる?」
「あったっけ?」
「え~! ひどーい」
「いや、多分、きっとド忘れ。なんだっけ?」
「ハタチになったら飲みに行こう、って」
「あ…したわ」
「とーぜん、そのときは」
「はい。俺がオゴルと言いましたね」
「ね~」
「…すっかり忘れてたわ。思い出したけど」

「も~。あと2年後なんだからねっ」
「悪い悪い でも、『ハタチになったら飲みに行こう』って、お前の先輩らとも約束してんだけど、未だかつて実現したことがないんだわ(笑)」
「まじ? じゃ、あたし第1号?」
「あと二年間に、先約が果たされなきゃな」
「え? あ…そうか」
「つーかお前、高校卒業したら、と勘違いしたろ」
「…うん」
「馬鹿たれ。あと二年」
「はーい」

「先生、あとどっか寄ってくの?」
「いや、お前以外知ってるヤツいないし。帰るよ」
「じゃ、送る」
「大丈夫? 片づけとか?」
「へーき」

そして、昇降口。

「もー、ほんと、受験勉強とか、予定通りに行かなくてどーしよ、だよ」
「ま、あと半年ある。半年ありゃ、なんとかなる」
「ほんとに~?」
「なるなる。高校受験のときの、お前の最後の追い込みは、ハンパなかったじゃん」
「そうかもしれないけど~。あの時は先生とかいたし…」
「ま、ね。半分以上は俺のおかげだな」
「でしょ~?」
「じゃなくて! そこで納得すんな!」
あたまペチリ。そのまま Shake her head.

「あああああ」
「やっぱお前、バカだ」
「ひどい~」
「あの時は、お前が本気で頑張ってたんよ。それこそ、死にものぐるいでな。でもな、俺は考え方は色々と教えたけれど、答えだけは絶対に教えなかった」
「…あ~、うん。確かに、答えを教えて貰った記憶ない」
「どーやってもわかんなけりゃ、答え見ろ。で、なんでこの答え?と思いながら解説をじっくり読め、とも言ったよな」
「うん。言われた」
「今、それ、やってるか?」
「…やってない」

「だろ。問題解いて、○か×か、何点か、だろ」
「うん」
「そら思い通りにいかねーっての。地道やけど、出来ない・分からないことを、出来る・分かるようにしてくのが勉強なんやから。暗記が通じるのなんて、高校受験まで」
「…はーい」
「凹むなって。お前の底力は知ってから。中学のときの英語とか数学と一緒でさ、ハードルをひとつずつ越えていけば、実は大したことないねん。今、中学んときの教科書読んだら、簡単すぎて笑ってしまうやろ」
「あ…うん。なんであのときあんなに難しかったんだろうって思う」
「ところが、今、思い通りにいかん、言うてるな。それはな、何かをすっとばしてしまったんよ。この2年の間でな。多分、気が付かないうちに。今ならまだ間に合う。スタートに戻ってみ。多分、最初は楽勝やからサクサク行くねん。でも、今の感じだと、3年の範囲に入る前に、どっかで必ずつっかかるで」
「なんか…そんな気がする」
「せやろ。今ならまだ間に合うから、この際ふりだしに戻れ。何もかも、みんな繋がってるから。基礎が固まってるヤツと、基礎がぐちゃぐちゃなヤツとじゃ、この先同じ1ヶ月でも伸びが全然違うねん。実際に、俺はその違いを見てきたんやから」
「…ん」
「だーかーら、凹むな、っつーの!」

脳天から鷲掴み気味にグリグリ。

「わー!」
「しゃーない、もいっこ、約束したるわ」
「えっ、なに?」
「とりあえずお前がこれから先ちゃんと頑張ってな」
「うん」

「卒業したときに、お前が胸張って『頑張ったよー』って報告できて、俺も『あー、頑張ったなー』と思えるような進路であれば、メシ、連れてってやる」
「まじでー!?」
「まじで。約束する」
「まじだよ。約束だよ。ウソついたら許さないからね!」
「だから、ウソはつかねーっての」
「じゃあ、忘れるんでしょ」
「大丈夫、今年度一杯はきっと覚えてるから」
「絶対だよ!」

昇降口で、靴を履きながら。

「ああ、絶対覚えてるから、ちゃんと頑張れよ」
「まじ頑張るよ。ってか、先生こそ忘れないでよね」

靴と、スリッパの境界線。

「約束は守る。一昨年も、去年も、今年もちゃんと来たじゃんか」
「そー…だね。うん」
「あとは、お前次第。まだ時間はあるから、そんなに焦るな」
「うん」

「じゃな、また今度」
「うん。先生、今日は来てくれてありがとね」
「元気そうでよかったよ。んじゃ」
「今度はちゃんとメール返してよっ」
「気が向いたらね」

子は、親の背中を見て育つ。
ひるがえせば、親は、子に背中を見られて育つ。

あのとき関わった沢山の子供達とは、この先関わることも無いだろうけど。
彼ら、彼女らの中には、その当時の「佐藤先生」が、残ってる。

まだ、時々、夢に見ることがある。

あの頃に吐いた言葉を、俺自身が裏切るわけにはいかないんだ。

『焦るな』
『諦めるな』
『なんとかなる』

『俺が、なんとかしてやる』

だから、頑張れ。

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