「もしもし。いやー、もぅ２つを同時にやってるから、大変だよー」
言ったな。大変って言ったな。２つ同時って言ったな。俺は、それを、１台のPCで２日かけて隅々までテストし、その傍らで他にもあれやこれやと対応しながら、黙々とやってたの。
「もしもし。どうですか？ やりながら、だんだんイライラしてきたよ」
こっちがイライラすんわボケー！ ＨＰアップすんのと違うんぞー！ ＡＤとかＤＢとか色々絡んでるんぞー！ ３台構成の検証環境と違って、８台のサーバが連携してる“システム”なんやぞー！ しかも、お前はアルツハイマーだから忘れてるかも知れんけど、俺がこのプロジェクトに関わり始めたのは半年前で、基本的にアプリケーション部分しか知らんのだぞ。このサーバを構築したの、俺じゃねーんだぞ。それを、仕様も設定も知らないままに“本番”サーバをいじってるんだぞ。ドキュメントも無しに探り探りやっとるんぞ。
直した。
「もしもし。○○で△△したら××になってるんだけど」
なってるんだけど、じゃなくて、そーなるのが正しいんですって。
「そうなの？ え～、それってマニュアルと違っちゃってるじゃん～」
そりゃベースは俺が作ったけど、その違う部分は、お前らが加筆したんだろがー！ ってか、お前聞いたよな、俺に。「ここの初期表示は？」って。で、俺は「開始はNULLで、終了は現在っすよ」答えたんやで。
なんでマニュアルに『【開始】【終了】ともに初期表示は空欄です』と書いてあるの？ ああ、もぅ、直したからさって言われたときに確認しなかった俺が浅はかでしたよ。
「あ～、もぅ俺今日は昼飯抜きだよ～」
てめーの電話を受けてる俺も昼飯に行けてねーの。
「もしもし。相変わらず□□がダメなんだけど、どう？」
「わかりません」
「テストではうまく行ってたんだよね？」
「でも、検証環境と本番は構成が違いますからね」
「え？ なにそれ？ どういうこと？」
あー、もぅっ！ あんた本当に何も知らないんですねっ！
「Ｒの時はまだこっちに本番環境があったじゃないですか。でも、Ｕは検証環境でしかテストしてないっすよね。検証環境ではＡとＦが同じサーバだったけど、本番環境では別サーバじゃないですか」
「あ～、そういうことか。理解した。なんとかなりそうかな～？」
だ・か・ら。「わかりません」と言ったでしょ。きっとアナタは忘れてるんでしょう、俺がサーバ構築には関わっていないことを。
半日そんな遣り取りが頻繁に続いて、今までかろうじてイーブンだった天秤が揺れた。
三月アタマ、６ヶ月の通勤定期が切れる前日に更新しといたんだけど、３ヶ月にしときゃ良かったかなぁ。そうすりゃ、交通費手当の残り分は別に使えるしね（笑）。
いやー、もうマヂで本気に愛想が尽きたゎ。もともと少ない愛想だけどよぉ。
ぶっちゃけると。
このまま続けてても、あの人の配下に居る限りは多分変わらずに望まぬ苦労は続くってか、人が増えない以上はむしろ苦労だけが増えて行くんだろうし。よしんば呪縛から解き放たれても、開発というものがアウトローなココに合わせてHUB屋やNetwork屋に転身しようなんて気はどーにも起こらないし。
気になる木の看板とか冠とか考えると、フツーは捨てがたいんだろうけど、半年前までフリーターな自分にゃ、そんなもん何の価値もねぇし。
悪い会社じゃないと思うけどさ、ここに居続けたところで、俺にも会社にもメリットが無いんじゃないかなぁ、って。社員であり給料を貰っている以上、会社に利益をもたらすことができなければ、どんなに頑張っても苦労しても、窓際のジジイと同じだ。
そんなことを、駅から寮までの夜道を歩きながら考えた23時。
野球場でドリブルしてたところで、パスを回すチームメイトも現れないし、狙うゴールも無いわけで。
どうせ膝を壊すなら、シュートを決めてからにしたいよね。
俺はこんなですが、あなたには光が降り注ぎますように。
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