セブンイレブンではボージョレだったが、スリーエフではボジョレーだった。
五時過ぎに佐倉を出て、七時過ぎに教室に到着。ちぃに小論を返却して、カロリーメイトをかじる。休み時間になって生徒が群がってくる。何故か中2男子にモテモテな俺。そんな一度に大勢で来られると、ぶっちゃけうっとーしぃ(笑)。
授業が始まってようやく解放されたので、ちぃのとこへ。
 「読んだか?」
 「読んだよ」
 「改めて解説しなきゃならんとこあるか?」
 「ん~、だいたいは『あ、納得』って感じ。結論はどうすれば良かったのかなぁ」
 「う~ん、この文章で結論だけ変えようというのは難しいな。なんでかというと、その前のトコで色々なコトに触れすぎてるから。これじゃやっぱり収束させにくい」
 「そっか~」
「一枚目に赤が少ないのは、やっぱ先に解答例を見ちゃったからだよね」
 「だろうな」
 「『ひのえうま』なんて知らなかったし」
 「まじか。漫画とかドラマで使われたりすることあると思うけどなぁ」
 「え~ナイナイ。これって男には無いの?」
 「無いな。女の人だけや」
「で、お前何書いてたんや」
 「あ、コレ? いちお、試験までの予定表。どの小論文をやろっかなぁ、って」
 「なるほど」
 「昔の出題を見ると、少子化とか子供に関するヤツが多いから、なるべくそーいうテーマをやろっかなぁ、って思ってるんだけど」
 「その方がいいやろうな。ついでに言えば課題文か資料のついた問題」
 「だよねぇ」
 「ただ、課題文の要約は、テーマ関係なくできるから。解答例が付いてる問題で練習してみ」
 「そっか。うん、そうしよ」
「んとさ、書いた小論はどうしたらいいの?」
 「ん? 今まで通り俺んとこ持ってきぃや。見てやっから」
 「えー。これ全部やってったら結構あるよ。ぉ父さん寝るヒマ無くなっちゃうよ」
 「あほう。添削なんぞ、お前が書く時間ほどはかからん。俺のことなんざ気にする事ないわ。どーせあと一週間だし」
「さて、今日は面接、やっぞ」
 「え゛…」
 「え、やない。もういい加減タイムリミットや。やっとかんとアカン」
 「だって、まだ全部書き出してないよ」
 「あんなぁ、ちぃ。実際には、お前がまったく想定してなかった質問をされるかも知れないんやで。そんときは、即座に考えをまとめて答えなアカン」
 「あ~、ま、そうだけど…」
 「ま、ちょっとは時間やろう。40分になったら始めるで」
「おし、始めようか。一応、時間制限10分な」
 「え~。これ、本番形式?」
 「入退出とか着席はいいよ。質問して、それに答える。あ、今日は自分のメモ見ながらでもエエよ」
 「あ、いいんだ?」
 「うん。はい、じゃいきます。え~、まず、本校を志望した理由をお聞かせください」
 「はい。……。ここで相談したら怒る?」
 「はぁ…。怒らんから言うてみ」
 「んとね、前はね『はい。私が本学を志望したのは(略)であり、』っていう風に言うつもりだったの。でも、それだとアレだから、学校見学に行ったときの話と(略)の話にしよう、ってなったじゃん」
 「なったな。だから、それを言えばええやろ」
 「そうなんだけどさぁ…」
 「はい、も一回。本校を志望した理由をお聞かせください」
 「…はい。学校見学に、、、来させて頂いたときに、、、在校生、、、の方に、『見学ですか? 案内しましょうか』と、、、優しく声を、、、何? 何だろう。かけられ? かけて頂き?」
 「“以前学校見学で訪れた際に、在校生の方から『見学ですか? 案内しましょうか』と声をかけて頂いたことがあり、雰囲気の良い学校だと感じました”とかでええやん」
 「そっか」
「は~。コレはもういいや。次です。あなたが○○になることを、周囲はどのように思っていますか」
 「え…?」
 「え、やないがな」
 「はい。……」
 「ちなみにコレは、○○系の学校の面接で聞かれる質問ベスト32に入っとる」
 「そうなの?」
 「ほれ。こないだ○○進学会のHPで見つけた」
 「ホントだ~」
 「はい、周囲はどのように思っていますか」
 「……はい。……私の母は、、、え~~(汗)」
 「ちなみに、おっかさんは賛成? 反対?」
 「賛成。アタシよりやる気になってるかもってぐらい」
 「それはずっと賛成?」
 「ちがっ、昔はすっごい反対してたの」
 「それは何で?」
 「え、だって○○って大変じゃん。できれば、アタシにはそーいう苦労はして欲しく無いって」
 「いつ頃から賛成になったん?」
 「高校に入ってからかなぁ」
 「したら、それを伝えりゃエエやん。“私は幼い頃から○○になりたいと思っていましたが、母はずっと反対していました。なぜかと言うと(略)だからです。しかし、高校に入り何度か進路の話をしていくうちに、母も私の熱意を理解してくれるようになり、今では一番応援してくれています”とか」
「は~。なるほどねぇ。なんでぉ父さんはそんなスラスラ出てくるのかなぁ」
 「ん~、そうやなぁ」
 「やっぱ経験の差?」
 「ま~、俺なんかはココで『いかに分かり易く説明するか』を仕事にしてきてっからねぇ。そのせいで、ってのもあるんだろうけどさ」
「前に言ったかも知れんが、思う・話す・書くは、みんな言葉を使うけど、全然違う。小論文がある程度書けるようになってきたとして、それで面接も大丈夫かっつーと、そうじゃない」
 「うん、やってみると、全然違うね」
 「なんでかっつーとな、まずお前らは自分の考えを相手に伝えることに慣れてないんや。『言いたい事』は頭に浮かぶんだけど、それを言うために何から言っていけばいいのか分からない」
 「あ~、うん!」
 「次に言葉遣いや。さっきの質問にも、普段通りの言葉遣いなら答えられるはずや。ところが、いざ面接口調で答えようとすると、どういう言葉を遣うのかで考えてしまう。そんで結局詰まってしまう」
 「そうだ…。うん、ぉ父さんの言うとおり…」
「ま、お前には悪いが、今日のはマトモな答えなんざ全然期待してへん」
 「う~、実際そのとおりだし…」
 「ただ、わかったやろ。いかに面接が難しいか」
 「うん、これ答えを暗記してないと絶対無理」
 「馬鹿たれ。暗記なんかするだけ無駄や。それよりも、きちんと答えを口にすること。『思う』だけで止めないで、『話す』練習をすんの」
 「…明日の授業ずらそう。で、小論と面接の練習しよう」
 「その方がいいかもな。明日は俺も今日ぐらいの時間には来れると思うから、一緒に考えてやるわ」
「ぉ父さんはさ、なんで数学がスキなの? 数学が好きな理由は?」
 「ん~。やっぱシンプルなトコかな」
 「シンプル…?」
 「一見複雑なものも、実はすごく簡単で、当たり前の所からスタートしてる。複雑なものが、すごく基本的なものの組合せで出来てる。一切の例外なく、論理的に積み重なっている。そういう所が、なんつーか、数学の魅力だよね」
 「(笑)。なんか熱く語りだしたよ」
 「うっさい(笑)」
 「あたしもね、そうだと思うの。例えば英語って、単語の意味を『知って』ないとどうしようも無かったりすんじゃん。でも、数学だったら、本当に基礎的なことだけ理解していれば、あとは『考えて』解くってことができんじゃん。『考える』楽しさがある、だからスキ。ってことをね、聞かれたら答えたいんだよ~」
 「練習せぇ。きちんと答えを口に出してみぃ。うまく表現できないもんは、明日アドバイスしてやっからさ」
俺に出来る事なら、なんだってしてやるさ。これで最後だから。


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