カーラジオから、山下達郎が過ぎゆく夏を唄っていた。
さよなら夏の日
僕らは大人になって行くよ

 今年もやっぱり、最初に遭遇したのはえりだった。
 なんとなく、そうなりそうな予感はしてた。
「先生、私のこと覚えてますか?」
 「覚えてるよ。○○えり」
 「フルネームだし(笑)」
「もぅ知ってる先生、みんな居なくなっちゃったんですよね」
 「そうだね。I先生はまだいるけど」
 「うそっ。すげ~」
「他のヤツら(※普通科)のクラス、知っとる?」
 「知らねー。会わないし、話す事もないし~」
 (※えりは英語科)
 「だよなぁ。ゆーりも?」
 「ゆーりちゃんは、(友達に)研修棟だっけ?」
 「うん。カレーかラーメン屋だったと思う」
「また研修棟か。去年と同じじゃんか…」
 「先生、早く行かないと時間なくなっちゃうよ」
 「そうだな。ちょっくら行ってくるわ」
「あ、そうだ。えり、お前進路は?」
 「専門行きます」
 「そか。じゃ、頑張れ」
 「はい。それじゃ」
研修棟は去年も行ったので、探す事はなかった。
 ぱっと見た感じ姿が見当たらないので、
 とりあえずカレー屋の受付の生徒に話しかけてみる。
「こんにちは」
 「(やや警戒)こんにちは」
 「ちょっと人を探してるんだけど」
 「いとう?」
 「いや、『ひと』(笑)。3人居てさぁ、え~と○○と…」
 「(隣に)知ってる?」
 「(答えて)え~、何組だったっけ?」
 「あと、○○ゆーり」
 「(隣に)あれ、ゆーりちゃんって、今調理だっけ?」
 「(答えて)そーかも」
 「(俺に)えと、何か用ですか?」
 「うん、ちょっと」
 「じゃあ…呼んできますね」
なんか、すんごい警戒心を抱かれているような(汗)。
「(厨房に向かって)ゆーりちゃん、いるー?」
 「ゆーり奥だよー。何ー?」
 「なんか、用があるって人が来てるんだけどー」
 「わかったー。ちょっと呼んでくるー」
“誰?”
 “わかんない”
 “何の用だって?”
 “さぁ”
 そんな声が聞こえてきて、去年と同じ展開やなぁと思って待っていたら、
ゆーりが窓から顔をだした。
「(片手をあげて)よぉ」
 「うそー、先生!? 誰かー、上履き貸してー」
「今年も来たよ。元気?」
 「はい。もぅカレーほとんど無いですよぉ?」
 「いや、食い物目的で来てないから。いらね」
 「美味しいのにぃ」
「っーか先生、あたし数学が超ヤバイんですけど(笑)」
 「そかそか」
 「ホントに。どーしましょってぐらい」
 「え、進路は?どーすんの?」
 「一応、英語系の学校に進みたくて」
 「ほー(納得)」
 「センターは受けるつもりなんですけど、なかなか勉強が追いつかなくてぇ」
 「まぁ、まだ時間はあるからねぇ」
 「はい…」
「じゃ、とりあえず毎年恒例の…」
 「無理!」
 「いいから、いいから」
 「ダメです!(厨房を指して)あの中に居たから、
 ホント、マジ、今カオやばいから~」
 「んなことねぇよ」
 「ダメダメダメ。ってか、誰か居ないとヤダから。
 ホントに~!」
 「わーったよ。じゃ、また後で撮りに来る」
 「はい…って、ダメですって!」
まぁ、昔から写真に撮られるの嫌いなコだから、
 拒否るのは予想通りで、
 だから俺は写真を撮るフリして動画で撮ってたんだけど(笑)。
厨房の中から、“誰か上履き貸してー”って声が聞こえて。
「なんか、忙しそうやな。あんまり邪魔しても悪いし、そろそろ行くわ」
 「あ、はい。ありがとうございました」
 「んじゃ、受験頑張れ」
 「はい」
 「念願の一人暮らし目指してな!(笑)」
 「はい(笑)」
厨房に戻るゆーりの背に向かって、
 ファインダーを覗きながら呼びかける。
「ゆーり!」
振り返る。
「ぴーす!」

 タオルで顔を隠しながらも、やっぱり、最後はとびきりの笑顔だった。
この2日間、昔の生徒に会って、話をして。
 彼ら彼女らが、きちんと自分の将来・未来に向かって頑張ってるってことが分かって。
 なんだか、安心した。
 それと同時に、少しの寂しさも感じた。
本当に最後だから。次は無いから。これで、途切れるから。
過去になるから。
 俺は、俺の今を、未来を生きてゆくから。
もはや鮮やかに色づくことはない。
 やがてはセピア色に染まっていく。
でも―――
永遠は、あるよ。
 ココに、あるよ。
俺の心の中。記憶の中。意識の中。
 お前らのことは、ずっと残り続けるよ。
 お前らが俺のことを忘れても、俺はお前らのこと忘れないから。


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